前編/いざ東北へ。「農泊」で出合った美しき港町のヒト・モノ・コト(1)

2018.11.20

1泊目にお世話になった八瀬市・吉田勝彦さんご夫妻

近ごろは2020年の東京オリンピックに向け、都市開発と同時に地方への注目度も高まってきています。そんななか、最近よく耳にする「農泊」という言葉をご存知でしょうか? 「農泊」とは文字の通り、地方の農山漁村に滞在し、そこでの暮らしを体験すること。

「農泊」は昔ながらの家屋での宿泊に加え、地元の人々との交流、地のものを使った料理など、魅力がたくさん。受け入れを行っている農家は全国にわたりますが、今回の旅の紹介は復興が進む熊本と宮崎の地へ訪れました。

そしてせっかく足をのばすなら、農山漁村に泊まるだけではなく、その土地のことをもっと知りたい。観光も楽しみながら、古きよき日本の暮らしを体感する2泊3日。私が過ごしたそんな旅の様子を、前後編にわたってご案内します。

今回は震災からの復興が進みゆく東北でのご家庭にお世話になることに。2日間をかけて、平泉から八瀬(やっせ)〜気仙沼〜陸前高田〜釜石を巡る旅に出ました

1泊目にお邪魔した宮城県気仙沼市の・吉田勝彦さん宅では、「農家民宿」で観光客の受け入れについての思いを伺いました。

2泊目の宿・岩手県釜石市「宝来館」では、震災からの教訓を伝えゆく女将・岩﨑昭子さんにもお話を伺いました。

お二方方の思いを、旅の途中に立ち寄りたい見どころと一緒にお届けします。まずは平安時代に藤原家が三代で築いたた歴史が息づく町、岩手県は平泉町へと向かいます。

奥州藤原が築いた歴史と150年の時のうつろいを体感できる平泉のお宿

 

■平泉倶楽部/調理体験/はっと汁

東京駅から東北新幹線に乗ること約2時間半。一関駅から車で向かったのは、今年7月にオープンしたばかりの完全貸し切り制のお宿「平泉倶楽部〜FARM &RESORT〜」。藤原清衡(ふじわらのきよひら)、子供の藤原基衡(ふじわらのもとひら)、孫にあたる藤原秀衡(ふじわらのひでひら)と、奥州藤原の三代が築いた平泉の地は、中尊寺や毛越寺などの歴史的建造物をはじめ、文化遺産が点在する場所です。

宿があるのは束稲山(たばしねやま)の山麓。ここ平泉への観光客は年間200万人にものぼりますが、そのうち宿泊者はわずか約2%にとどまるそう。第一に、宿泊施設自体が少ないという問題もあることから、“通過型”ではなく”滞在型“の観光地を目指す取り組みの一貫として、築約150年の民家を改修する形でオープンしたのが、ここ「平泉倶楽部〜FARM &RESORT〜」。

約170平米ある室内には4室(うち洋室が1部屋)に加えひのき風呂も。室内の各所には七宝柄を描いた壁や南部鉄器の急須などが置かれています。数々の伝統工芸品を間近に触れながら滞在を楽しめます。

宿の庭からは焼石連峰(やけいしれんぽう)と紅葉の美しさで知られる栗駒山(くりこまやま)を一望。深呼吸すると、緑の匂いやすがすがしい風で体が癒やされます。ここでは地元に住む千葉加代子さんに、宿泊者の体験メニューとして用意されている郷土料理「はっと汁」を習いました。

築約150年の古民家を改修した「平泉倶楽部〜FARM &RESORT〜」

「はっと汁とは、農作業の際に片手間ででき、なおかつお腹がいっぱいになる料理として伝わってきました。ご飯を炊くほどでもないなという時に食べるのが、こういった練り物(はっと)なんですよ」と千葉さん。まずははっと作りです。山芋が入ったk小麦粉をぬるま湯で耳たぶくらいの固さになるまで練り、30分以上寝かせます。

待つ間は、千葉さんと孫のあやねちゃんとひと息

はっと汁のレシピは、醤油仕立てであったり、お味噌仕立てであったり家庭によって異なります。今日は醤油をベースに油揚げで出汁をとり、大根やニンジンと煮込みます。はっとをお鍋に入れる際は、指の腹で伸ばして切っていくのがコツ。生地の伸びはいいものの、テンポよくちょうどいい薄さに切っていくのがなかなか難しい!

はっと汁完成!

つるりとした生地はもちっとしているが歯切れよく、噛むほどに山芋のやさしい味が。野菜のシャキシャキ感とミョウガの香りが広がります。食べ終わると、「南部鉄器で沸かしたお湯を飲んでみませんか?」と千葉さん。ここの水は、天然の地下水を引いているそう。入れていただいた白湯は柔らかでまろみがあり、体を芯からぽかぽかにしてくれました。

案内してくださった株式会社イーハトーブ東北の松本数馬(左端)さんと共に

次なる目的地へ向かう途中には、藤原三代を描いたライスアートを発見! 北上川の恩恵を受ける平泉は、肥沃な土壌により農業が発展した場所です。稲刈り前に見られるこちらは、上から見た際の図を考え、稲を植える時点で角度などを計算しているというから驚き!

ライスアートは秋の醍醐味。その細やかさに目を見張ります

平泉倶楽部〜FARM &RESORT〜

住所/岩手県西磐井郡平泉町長島字前林78-1

電話/0191-26-0015(9:00〜18:00)

料金/一泊100,000円(税抜)※1日1組限定、定員9名

松尾芭蕉も訪れた平安仏教美術の宝庫

 

■中尊寺/金色堂

お次は「中尊寺」へ

30分ばかり車を走らせて到着したのは「中尊寺」。平安仏教美術の宝庫とも言われる中尊寺では、昭和4(1929)年に国宝に指定された金色堂(こんじきどう)をはじめ、国の特別史跡に指定されている境内など、約3000もの国宝や重要文化財があります。

金色堂といえば、かつてここを訪れた松尾芭蕉が、「奥の細道」の中で「五月雨の 降り残してや 光堂」と詠ったことでも知られていますね。お参りをしたら、さっそく金色堂の見学へ。

国宝第一号でもある金色堂は、1124年に藤原清衡によって建てられたもの。浄土信仰が盛んだった平安時代には多くの阿弥陀堂が建てられましたが、金箔で飾った例はほかにはなく、極楽浄土を具体的に表現しようとした清衡公の思いが込められているそうです。

中尊寺

住所/岩手県西磐井郡平泉町平泉衣関202

電話/0191-46-2211

時間/8:30〜16:30(2月末まで)

料金/大人800円、高校生500円、中学生300円、小学生200円

 

旬の作物の収穫体験で、秋の味覚を堪能

 

■収穫体験/伊師さん宅

伊師さんは元公務員。定年退職後も果樹栽培に力を入れているそう。

お次は一関市舞川にある伊師さんのご自宅へ。到着すると、伊師さんご夫妻とともに3匹の愛犬(テン、アンコ、キナコ)と猫の館長が迎えてくれました。こちらでは、仕事の合間にはじめた果樹園を近所の方々や観光客に開放しているそう。約25年かけて作った 果樹園に、梨7種、シャインマスカットやクイーンニーナといった品種のブドウが10種以上!

「もともとは息抜きではじめたのだけど、いつの間にかこの規模になっていて。お世話になっている人やご近所さんを中心に、こうしたライフスタイルを体感してもらえたらと思い、開放するようになりました。いろいろな品種があるので、自由に狩ってもらった上で、みんなで食べ比べたりね。毎年うちの果物を楽しみにしてくれる人がいるのが嬉しい」と伊師さん。

私もさっそく実った梨を穫って食べ比べ。甘くシャリシャリした豊華(ゆたか)にみずみずしく香りいい豊月(ほうげつ)と、味の違いがはっきりと分かります。さらに隣には、奥さま担当の野菜畑も。穫れたてのミニトマトや菊で作った甘酢漬けをいただきました。土や草木の匂いを感じながら食べる“そのまんまの味”は、生き生きとした作物本来のおいしさです。

ブドウの栽培はプロに習ったそうですが、あとはすべて独学。「新しい暮らしの形を伝えられたら」と、活き活きと語る伊師さんから、田舎暮らしの楽しさを学んだ気がします。

伊師さんご夫妻とネコの館長(7歳)も一緒にパチり

■一関平泉エリア農業体験相談先

名称/平泉一関エリア農泊推進協議会

住所/岩手県一関市大町4-29 なのはなプラザ2階

営業時間/9:30〜18:30

電話/0191-34-5345

料金/時期や体験内容によって変わります。

紅葉に、最新鋭のプロジェクションマッピングを投影した氷のアート!? 彩り豊かな気仙沼のレジャーを味わい尽くす

 

■猊鼻渓/自然を満喫

宿がある気仙沼エリアへ向かう前に、もう一カ所立ち寄りたい場所が。車を停めたのは、国の史蹟名勝天然記念物であり、日本百景にも登録されている渓谷「猊鼻渓(げいびけい)」。11月ごろは紅葉狩りの名所としても知られており、舟下りをしながらゆったりと山川の自然が楽しめます。ほかにも揚げ餅(150円)などのちょっとしたグルメや、さまざまな願掛けができる「運太郎」の像など、いろんなお楽しみがありますよ!

左下:揚げ餅/右下:渓流下り

猊鼻渓

住所/岩手県一関市東山町長坂字町467

電話/0191-47-2341(げいび観光センター)

料金/大人1600円、小学生860円、幼児200円(舟下りの料金)

 

■ちょいのぞき気仙沼 氷屋探検 岡本製氷

さて、いよいよ気仙沼に到着! ここでは気仙沼の仕事や暮らしを体験できるプログラム「ちょいのぞき気仙沼」に参加します。古くから水産業を中心に発展してきた気仙沼には、他の地域にはない独自の文化が残ります。2015年に不定期でスタートした同プログラムは、2017年には毎週開催されるようになり、現在は気仙沼の観光を支える体験プログラムになっているそう。

ポイントは観光業者ではなく、そこで働く人々が「自分たちの仕事を伝えたい」と工夫を凝らして企画しているところ。時間は1時間弱と長くはありませんが、リアルな現場を見られ、普段は接する機会が少ない人々の声を聞ける貴重な取り組みということで、年々参加者も増えています。

まずは約60年(1954年創業)にわたって気仙沼の漁業を支えている「岡本製氷」へ。氷が作られる仕組みやその用途などを聞いてから、工場内を見学します。こちらで作られている氷は、主に魚の運搬に使用するもの。夏場はかき氷用として地域の人々からの需要も多いそう。

氷がコンベアで運ばれていく様子は迫力満点! 「気仙沼は生鮮カツオとメカジキ、鮫の水揚げが日本一。食卓に新鮮な魚を運ぶために、私たち氷屋が必要なんです。漁船が漁へ出る時、市場に戻って水揚げする時もここの氷が使われるんですよ」と、専務取締役の岡本貴之さん。

「一番忙しいのはカツオのシーズンである夏。山積みに氷を積んで、1日にトラック270台分、400トン近くの出荷があります。氷を扱っていると涼しそうですが、スコップを使っての手おろし作業は、ぜんぜん涼しくありません(笑)。冬場は氷の出荷が激減し出荷量の差が激しいというのも氷屋の特徴の一つです」(岡本さん)。

そしてこちらでは、2つの“氷の楽しみ方”を提案されています。1つ目はできたての「かき氷」、2つ目は氷を使ったアート「フローラルアイス」の実演です。「かき氷は、参加した際に『ちょい食べしたい!』と希望がありましたら、その場で削ります」と岡本さん。さっそくいただきましたが、ふわっとじんわり口どける氷は、シロップがなくてもおいしい! ひんやりと氷のみずみずしさが口いっぱいに広がります。

そして最後は、職人さんたちによる「フローラルアイス」の実演を見学! こちらは後述する「氷の水族館」のオープン時に、氷彫刻のパイオニアである清水三男さんに基礎を習ったそう。その後みなさん独学で練習し、プログラムに組み込んだといいます。

横にした氷の塊を約10分かけて削り、削った穴に塗料を入れます。氷を立てた瞬間に現れたのは、なんと美しいお花! あまりの驚きに、思わず声をあげてしまいました。

そして近くにある観光施設「気仙沼 海の市」の中にある、マイナス20度の氷の世界を体験できる「氷の博物館」も、岡本製氷さんによるもの。こちらでも、さまざまな氷のアートを楽しむことができます。

凍った魚や貝たちが並ぶ空間は、なんとも幻想的。なかには季節に応じた氷のオブジェも設置されています(取材時はハロウィーンでした)。キンキンに冷え込んだギャラリー内は、息を呑むような美しさがありました。

しばらくすると、音楽と共にプロジェクションマッピングがスタート。美しい映像に照らされた氷のオブジェたちは、透明度が高い純氷だからこそ鮮やかに反射されていきます。氷の便利さを感じた工場見学とは対象的に、ここでは氷の美しさを感じることができました。

ごちそうさまでした!

ちょいのぞき気仙沼 岡本製氷 「氷屋探検」

住所/宮城県気仙沼市港町4-18

電話/0226-22-4560(気仙沼市観光サービスセンター)

時間/日により異なる

料金/一般1,500円、中学生以下800円

 

氷の水族館

住所/宮城県宮城県気仙沼市魚市場前7-13

電話/0226-24-5755

時間/9:00〜17:00(最終受付16:40)

料金/中学生以上900円、小学生400円

 

一期一会の出会いだからこそ、話せる話がある。農泊の醍醐味を肌で知る

 

◎吉田勝彦さん宅へ(八瀬)

さて、氷の水族館を出る頃には、すっかり日が暮れだしました。1日目の宿、八瀬地区の吉田勝彦さんのお宅へと向かいます。到着するなり、さっそく、夕御飯でもてなしてくれました。吉田勝彦さん夫妻。食卓には、奥さん手作りのお鍋や餃子、南蛮味噌、サンマなどがずらり! 「お腹空いたでしょ?」との言葉に、心がほぐれます。

【吉田さんインタビュー動画】

香りよい“香茸(いのはな)”(きのこの一種)の炊き込みご飯も、とってもおいしい!

夕飯のあとは、ちょいとお庭へ出ました。取材時は秋の涼しさが増して、しんしんと冷え込んできた10月の終わり。満天の星が空いっぱいに広がります。

プラネタリウムのような星空に癒されたところで、1日目は終了。畳の上に敷いた布団に潜り込む。冷えた手先にそんな瞬間の布団のぬくもりがじんわり温かく、特別な思い出となりました。

吉田勝彦さん宅

住所/八瀬・森の学校 宮城県気仙沼市塚沢72

電話/0226−55−2323

料金/要問合せ