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後半/いざ東北へ。「農泊」で出合った美しき港町のヒト・モノ・コト(2)

2020年に開催される東京オリンピック。世界から、東京の文化だけなく地方に根付く伝統文化への注目の眼差しが注がれています。。そうした機運の高まりのなか全国の農山漁村で広まりつつある「農泊」を体験するべく、今回は2泊3日で東北の三陸海岸沿いを巡る旅へ出ました。

 

「農泊」とは、農山漁村で伝統的な生活体験や地元の人々との交流を楽しむことができる農山漁村滞在型旅行のこと。滞在するなかで、昔ながらの暮らしに加え、地元の人々との交流やその土地ならではの伝統文化など、その地のヒト・モノ・コトを一挙に体験できるのが最大の魅力です。

 

前回(※前回の記事のリンクをこちらに挟みます)に引き続き、気仙沼を旅したのち、2泊目は大槌湾を望む釜石市「宝来館」に宿泊。震災からの教訓を伝える女将・岩﨑昭子さんにもお話を伺いました。震災から蘇った街の魅力を最後の1日で味わいつくします。

 

 

新たに生まれ変わろうとする市場を探検

■ちょいのぞき気仙沼 魚市場探検

まずは早朝から魚市場の見学へと足を運びます。今回訪れたのは、日本随一の漁港である気仙沼港。なんでも生鮮カツオとメカジキ、鮫の水揚げ日本一を誇るのだそう。

案内してくださった気仙沼観光コンベンション協会の臼井亮さん曰く「気仙沼港は、漁業と共に発展してきたこのエリアの経済の中心ともいうべき場所。幅が狭く波も穏やかなので、台風の影響も少なく“漁師さんに優しい魚市場”としても知られています。台風時の船の避難場所としても日本一かもしれませんね。船を直せる造船所も近くにあり、新鮮な魚を届けやすい環境だけでなく、造船技術までが備わっています」。

2011年に起きた東日本大震災の際は、2階の魚市場見学デッキの天井まで津波が到達したといいます。「屋上に2000人ほどの人が逃げていました。津波の影響で1メートル50センチも地盤沈下を起こしましたが、逃げた人達は無事でした。震災後とにかく復旧・復興しなければと、約3ヶ月後の2011年6月に魚市場を復活し、カツオが水揚げされたんです。その際は『気仙沼に水揚げしたい』と全国から漁船が集まって。そんな支援からここは再スタートを切ったんです」(臼井さん)。

気仙沼の市場は、海が目の前にある昔ながらの市場ですが、残念ながらこの光景は今年で見納め。来年の3月にはの新魚市場が完成するため、水揚げの中心はそちらに移行されます(長さは計約1キロメートルになるそう!)。

市場にはずらりと水揚げされた魚たちが並びます。「揚がった魚は、すぐにフォークリフトで近くの水産加工場に運びます。水産加工場や氷屋さんや函屋さんが市場の近くにあるからこそ、鮮度が保たれたまま出荷できる。これが気仙沼港の最大の強みなんです。夏場にみなさんが入り乱れる様子はまるで戦場ですよ」(臼井さん)。

臼井さんのお話をお伺いした市場の見学後は、名物のメカジキのお刺身を試食。脂がのったメカジキは、甘くじゅわっと舌の上で溶け、じんわりとした甘みが口いっぱいに広がります。その後はカツオ船での一本釣りに使う竿やメカジキの鋭いツノも見せていただき、生命の危険を伴う漁業のシビアさを改めて実感しました。

ちなみに見学時間は、水揚げや入札が行われる早朝の6〜8時頃の時間帯がおすすめ。活気あふれる光景をぜひ目に焼き付けてくださいね。

「海の市」2階にある顔ハメで臼井さんと記念撮影。三陸沿岸で獲れる海産物・ホヤをモデルにしたキャラクター。手にはサンマの剣を携えています

ちょいのぞき気仙沼 「魚市場探検」

住所/宮城県気仙沼市魚市場前7-13

電話/0226-22-4560(気仙沼市観光サービスセンター)

時間/8:00〜9:00

料金/一般1000円、小学生500円、未就学児無料

 

 

そば打ち体験に、函屋なる職業体験で熟練の技を目の当たりに

 

■八瀬・森の学校でそば打ち体験

お昼は自分で打った蕎麦を!

その後は八瀬に戻りそば打ち体験へ。主催する「八瀬・森の学校」は、、昨日泊めていただいた吉田さんをはじめとした、地域の方々によって運営されています。

文化財である旧月立小学校のスペースを利用しており、とても風情ある建物なのでここだけでも一見の価値あり!

そば打ちはコツを習いながら、粉をふるうところからスタート。水と合わせていき、生地ができあがったら包丁で切っていきます。切ったお蕎麦は、大きな鍋へ!お母さんが作ってくれた地元野菜の天ぷらと共に、いただきます!

一から手作りするうちに、いつのまにか童心に返っていました

そば打ち体験

住所/八瀬・森の学校 宮城県気仙沼市塚沢72

電話/0226−55−2323

料金/大人1,500円 中学生以下1,000円 未就学児500円

 

 

■ちょいのぞき気仙沼 藤田製函店 「函屋探検」

倉庫にはカラフルなビニールに包まれた箱がぎっしり!

お腹がいっぱいになったところで、ちょいのぞき気仙沼のプログラムを体験しに「藤田製函(せいかん)店」へ伺いました。こちらは“函屋(はこや)”の愛称で親しまれている仕事場。

「函屋さんって何?」と思った方も多いのではないでしょうか。函屋とは、魚を運搬する際の“魚箱”を扱う仕事のこと。“函屋”はここ気仙沼で氷屋、運送屋と合わせて“水産加工場の三種の神器”とも言われる仕事です。

昔は木で魚箱を手作りしていましたが、今はその9割が発泡スチロール。ですが、大きいマグロやメカジキを丸ごと出荷する際は稀に木箱の出番があり、(日に1箱出るか出ないかとのこと)。そちらは今でも手作りしているのだそう。

「魚自体の小型化、細分化が求められるようになったのが主な理由。4つ割りやブロックの状態、刺身での需要など、丸々一本で出ることが少なくなった」と専務取締役の藤田一平さん。

箱の大きさは入れる魚の種類や数により様々! 水揚げ日本一を誇るカツオとサンマ用の箱が多くを占めますが、一番大きいものは60キロサイズののマグロが入る巨大なもの。

藤田さんらは毎朝、魚屋さんや業者から電話を受け、箱を市場へ届けます。ここでのプログラムは、そんな仕事を体験できる内容に。

「はじめは探り探りでしたが、どうしたらみなさんに楽しんでもらえるか? と考えるうちに『函屋の算数』(実際の注文の様子を再現・体験し、必要な箱の数を計算)と『函屋の体育』(注文を受けた数の箱をトラックまで運んでみる)に至りました」(藤田さん)。

藤田さんは約20箱を一度にひょいと持ち上げますが、私は2〜4箱でも大苦戦! 重さよりもバランスを取るのが難しく、見た目以上になかなかのアトラクション感があります。

「日によって水揚げ量が違うので、出る箱の数はなかなか予想できません。箱がないと出荷準備ができないから、電話を受けたら急いで持っていきます。とにかく早く! そこで魚を詰めて氷を入れ、各地に出荷されていくんですよ」と藤田さんはにこり。

「函屋って、あんまり日の当たらない仕事なんですよね。仲買人さんなど少数の方々としかお会いしませんし、どんな仕事なのかも外からは見えにくい。こうしたプログラムを通して喜んでいただけると、みんなのモチベーションにもつながります。実際にこうした活動でこの仕事を知り、入社した人もいるんですよ」(藤田さん)。このように“ちょいのぞき”には、観光スポットにはない人やものごととの出会いがたくさん。気仙沼を訪れた際は、ぜひ顔を出してみてくださいね。

■ちょいのぞき気仙沼  藤田製函店 「函屋探検」

住所/宮城県気仙沼市弁天町1-2-11

電話/0226-22-4560(気仙沼市観光サービスセンター)

時間/日により異なる

料金/一般1000円、小学生500円、未就学時無料

 

■釜石へ〜大船渡に立ち寄り

次なる地・釜石へ向かう前に、大船渡で途中下車。まだ復興が進むここには、震災の津波にも耐えた「奇跡の一本松」が佇みます。取材時はあいにく整備のため近くで見られませんでしたが、近くにはカフェなどもあるので、訪れた際はひと息つきがてら、ゆったりと歩いてみてください。

海の側にたたずむ、奇跡の一本松

さて、来年のラグビーワールドカップの開催地にも決まり、盛り上がりを見せる釜石市へ!

 

絶品ご当地グルメを堪能しながら、震災の教訓を学ぶ

 

■本日の宿・宝来館へ

いよいよ2日目の宿「宝来館」に到着! 目前の大槌湾に加え、「日本の白砂青松100選」にも選ばれた根浜海岸が広がります。大槌方面に目をやると「ひょっこりひょうたん島」のモデルになったといわれる蓬莱島(ほうらいじま)の姿も。

今回は夜ご飯の前に、女将である岩﨑昭子さんに、釜石の町についてお話を伺いました。震災で周辺のほとんどが壊滅したこの地の宿を、変わらずに守り続ける岩﨑さん。毎朝宿泊者に向けた講話で、当時の話や今後の防災について語り継いでいます。

宝来館女将岩﨑昭子さんインタビュー動画

震災を経て失ったものは数え切れないほどあると思いますが、その体験に基づいた未来へと向ける確信と眼差しが言葉尻から感じ取れました。

浜のマロウド(コタマガイ)

「最近はサイクリングで地域を案内する取り組みも行われているので、参加してみてください」との言葉を受け、翌日の午前はサイクリングでの観光に決定!ハマグリに似た浜のマロウドをはじめ、地元の海の幸を使った浜料理でお腹を満たし、床に着きました。

宝来館

住所/岩手県釜石市鵜住居町20-93-18(パンフレット記載の住所です)

電話/0193-28-2526

料金/素泊まりプラン大人1名9000円(税抜き)〜

 

 

 

電気自動車で海沿いも山道もラクラクサイクリング観光

 

 

■サイクリングで釜石周辺をぐるり!

ガイドの福田学さんと。電動自転車で出発!

最終日は、朝からサイクリングへ出発! 自転車でのガイドツアーを展開している福田学さんが箱崎半島をぐるりと案内してくださいました。朝のすがすがしい空気を味わいながら、いざ出発!

右上:神社からの港の景色 右下:途中寄った海岸

海の神様を祀る箱崎神社をはじめ、漁港や隠れた絶景ポイントを巡ります。エメラルドグリーンの美しい海や、隠れ家のような場所にあるビーチと、少し足を伸ばすと、また違った釜石の魅力があふれていました。

途中にあった小さな漁港でまったり

ガイド付きサイクリングツアー

時間/日により異なる

料金/一般1名5,000円

URL/https://visitkamaishi.jp/

 

■歴史が息づく橋野高炉跡

2015年には、世界遺産(文化遺産)「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産にも登録

サイクリングでリフレッシュしたら、さらに山の方へ足を延ばすことに。釜石は漁業が盛んであるほかにも、 “鉄の町”として称される一面も。その足跡を感じられるのがここ橋野鉄鉱山にある「橋野高炉跡」(はしのこうろあと)近代製鉄の父といわれる大島高任(たかとう)の技術指導により1858(安政4)年に建設され、現存する日本最古の洋式高炉跡として、国の指定史跡にも指定されています。

採掘場跡と運搬路、高炉場跡で構成されている橋野鉄鉱山ですが、明治の最盛期には約1000人もの従業員と牛150頭、馬50頭が暮らす日本最大の製鉄場でした。1894(明治27)年に3つあった高炉がすべて廃止されると、以降は採掘のみが行われていました。

敷地のなかには高炉の跡などが点在

敷地の中には、高炉や石切り場、水路の跡が点在。ゆったりとした上り坂で、ぶらりと歩くにはちょうどいい距離です。色づいてきた山々の自然を味わいながら、気ままに一周。こちらを見学する際は、近くにある釜石市橋野鉄鉱山インフォメーションセンターにもぜひ立ち寄りを! 野鉄鉱山の概要をショートムービーやパネルで学ぶことができますよ。

橋野高炉跡

住所/岩手県釜石市橋野町第2地割15(https://goo.gl/maps/9H4eQUwCQ762)

電話/0193-22-8846

料金/無料

 

 

珍しいグルメに、乗馬。三陸の魅力を最後まで味わい尽くす

 

■「峠の茶屋」で腹ごしらえ

続いてはお昼を食べに、橋野高炉跡の近くにある「峠の茶屋」へ。小笠原静子さんが切り盛りする茶屋では、地元素材によるセット(1500円)や小笠原さんの得意料理「峠のカレー」が楽しめます。今日はいろいろなものが食べてみたかったので、セットをチョイス。

メニューが出てくる前には、デザートのくるみ餅作りをお手伝いさせてもらいました。すり鉢で細かくしたくるみを、小笠原さんがごまダレ&お餅と合わせ仕立ててくれます。

今日の献立は地元の家庭料理「山菜のひっつみ」をはじめ、無農薬の自家農園で採れた野菜や煮物、鶏肉のコーラ煮など。お母さん特製の味噌マヨで食べる自家製の野菜も、新鮮で美味い。

! 味噌の甘さにマヨネーズのコクを感じられるお味噌は癖になります。「若い人たちはみんなおいしいものを食べているから、たまには『これ何?』、『食べたことない!』っていうような珍しい食文化を体験してもらえたらなって」と小笠原さん。

ひっつみの中には、粉とカボチャを合わせたラグビーボールに見立てた練り物も。お母さんの遊び心に思わずほっこりしました。

 

案内してくださった株式会社かまいし DMCの久保竜太さん(左から2番目)&三陸ひとつなぎ自然学校のボランティアコーディネーター・岩城一哉さん(左)も一緒に!

 

峠の茶屋

住所/岩手県釜石市橋野町2-38

電話/0193-57-2005

時間/11:00〜14:00

※要予約

 

■三陸駒舎/リラクゼーション乗馬体験

古民家「三陸駒舎」へ

最後に訪れたのは、気軽に乗馬が楽しめる古民家「三陸駒舎」。ここでは馬に揺られながら手足を動かしてリラックスする「ホースセラピー」が体験できます。「はじめは仮設住宅の子供たちに向けた居場所作りのお手伝いをしていて、馬と一緒に仮設に行ったりと、さまざまな取り組みをしていました」と主催する黍原豊さん。

 

「馬は主人を決めずに、誰とでも平等に接するアニマルセラピーの王様のような存在です。釜石では馬の力を借りて山から木を運んだり、共に畑を耕す馬耕など、長らく馬を生活のパートナーとしてきた場所。そんな文化を再生することで、地域の活性化や人々との交流も計っています」(黍原さん)

ブラッシングで馬に触れたり、乗りながら心地いい揺れを感じることでストレス解消にもつながるそう。ぽかぽかと体温の高い馬の体は、触れているだけで気持ちが穏やかになります。

本日一緒になったのは、北海道生まれのアサツキさん(8歳)。これまでに1000人を超える人々を乗せたベテランさんです。ブラッシングとエサやりをした後は、いよいよ乗馬へ!

アサツキに乗る筆者

馬に乗るのははじめてでしたが、思いのほかすぐに慣れました。高さゆえバランスを取るのに苦労しつつも、ゆらゆらと心地いい揺れを感じながら、腕をゆっくり回したり、横に伸ばしたり。10分ほど経つと体が温まってきて、なんともいえない気持ちよさを感じます。

「ずっと乗っていたい!」と思いながらも、約20分で乗馬は終了。「ありがとう」と体をぽんぽんと叩き、お別れをつげました。

 

三陸駒舎 リラクゼーション乗馬

住所/ 岩手県釜石市橋野町第9地割44-7

電話/090-7070-7378

時間/9:30〜11:30、13:30〜17:00(体験時間は約15分)

料金/2000円(保険料含む)

URL/http://kamakoma.org/index.html#pagetop

※予約はHPの各体験申し込みフォームから

 

濃厚だった旅もこれにて終了!

 

さまざまなヒト・モノ・コトと出会えるえる農泊の旅は、その地を愛する人々の声を聞くことで、ぐっとその時間が濃密なものになるはず。旅に出た際は観光スポットを巡るだけでなく、土地の歴史やグルメなど、地元の人々だからこそ知るあれこれに耳を傾けて体験をより豊かなものにしてみませんか?

 

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