富山で釣りと伝統工芸にチャレンジ!お腹も心も満たされる「農泊」の旅(前編)
「野菜の収穫や魚釣りをして食べたい」「郷土料理を作りたい」「伝統工芸を体験したい」「田舎が欲しい」。
“いつかチャレンジしたい特別なこと”として語られる、こうした非日常体験は、実は誰かの「日常」。
そんな日常のお裾分け、つまり体験をさせてもらえる旅こそが、最近話題の「農泊」です。
「農」という言葉から農村が連想されがちですが、対象は「農山漁村」。つまり日本の産業現場すべてが舞台となるのです。
今回はその中から「漁」と「工」にスポットを当て、1泊2日で富山県の氷見・高岡にお邪魔してきました。
前編では氷見の「釣って食べる体験」、後編では高岡の「伝統工芸を見て作る体験」を中心にお届けします。地域の方に教えてもらった、とっておきのグルメ・絶景情報も満載です。
お腹も心も満たされた農泊旅。この記事を通して少しでも魅力をお伝えできたら嬉しいです。
<旬の魚を手ぶらで釣ろう>
■氷見漁港初心者歓迎/釣り船/亀丸
東京駅から新幹線で2時間40分。新高岡駅から車で向かったのが、「寒ブリ」をはじめ、四季折々の海産物が楽しめると人気の氷見市です。
そんな氷見の港には一年を通して “初心者”が“手ぶら”で旬の魚を釣れるプランがあり、さらに近くには釣った魚を料理してくださる民宿まであるそう。
ということで、1日目は憧れの「魚釣りをして食べる」体験を中心に、氷見を満喫したいと思います。
釣りプランの集合時間はターゲットとする魚や船によって異なりますが、この日は早朝6:30に港へ。
「亀丸」という船で、高級魚「甘鯛(あまだい)」釣りにチャレンジさせていただきました。
港に着いたときは眠くてたまりませんでしたが、早朝ならではの凛とした空気や、柔らかな波音、じんわり色付いて行く空と海を見るうちに、全身が本当の意味で目覚めるような、まるで細胞から生まれ変わっていくような幸福感を感じました。
こんな早朝から港にいる時点で日常とかけ離れていますが、ここからどんどん非日常体験は進みます。
まずは、「女性には優しい」という笑顔のチャーミングな船長さんに手を引かれ、ゆらゆら揺れる船上へ。
地元の釣り人さんたちも乗り込んだら、さっそく船が出航です。
冷たい潮風を受けながら港を出ると、船長さんが「寒い時期だから見られる、とっておきの景色があるよ。」と声を掛けてくれました。
そうして港からすぐの場所で速度を落とし、見せてくれたのがこの景色。
手前にぽっかり浮かぶのは「唐島(からしま)」という無人島。そして奥、海一面を取り囲むようにそびえるのが「立山連峰」です。
富山湾は東西にかけて“すり鉢”のように湾曲しており、北西部に位置する氷見から南東の立山連峰を見ると、まるで山が海に浮かんでいるような不思議な景色が見られます。
さらに冬場は、水面に立ち上る霧が湯気のように見える「けあらし」という現象が起こり、一層、幻想的な景色になるそうです。
釣り場は港を出てから、わずか15分ほど。
富山湾は沿岸部から一気に深くなり、海底に魚が住みやすい起伏がたくさんある、国内有数の漁場です。だから港近くでも色々な魚を狙うことができ、初心者にもおすすめなんだそう。
船が停まったらさっそく、レンタル品(竿など)の準備とレクチャーをお願いします。
甘鯛の釣り方はとってもシンプル。エサとオモリのついた針を海中に落とし、海底を軽く引きずるくらいの位置でセットしたら、あとは放置。魚がかかると、竿先がグイグイ引っ張られてわかるそうです。
「一匹釣ってみればわかる」らしいので、言われた通りエサを海底にセットし、のんびり竿先を見つめます。
「まだかな。まだかな。」ワクワクしながら待つこと数分。波に合わせて規則的に揺られていた竿が、不規則にグイグイッと引っ張られました。
「来たよ!ほら、巻いて巻いて。焦らずゆっくり。」船長に言われて竿を手に取り、糸を巻き始めると、想像していたよりも重い。
魚が逃げようと糸を引っ張るたび、竿の重心がどんどん下に。
「もっと竿先を上に持ち上げながら巻いて。糸がたるむと逃げられちゃうよ。」というアドバイスに、なんとか竿をかかげ、糸を巻いていきました。
しばらくすると、水中にぼんやり赤い影が…!
「本命だ。しかもデカい!」船長が笑顔でタモを取り、赤い塊をすくいあげてくれます。
「すごい!大物だね。」地元の釣り人さんたちも拍手してくださった、記念すべき1匹目がこちらです。
釣りたてだからこその鮮やかな体色と艶が眩しく、ビチビチと体をくねらせます。
釣り上げた興奮と皆さんに褒められた嬉しさで、気分が高揚し、寒さも忘れるほどでした。
しかし直後、「じゃあ、美味しく食べるために〆(しめ)ようか。」と、エラ部分にナイフを刺し込むシーンを見て、高揚はどこかへ。
あんなに暴れ回っていた甘鯛が動きを止め、海水の入ったバケツの中で血を流す姿に、「命が食材に変わる」事実を急速に理解しました。
これまでスーパーなどに陳列された魚を、私は「食材」として見ていました。しかし当たり前のことですが、すべての食材は、もともと「命」なのです。
言葉だけでわかったつもりになっていた大切な事実を、本当の意味で理解できる貴重な体験。農泊で学べるのは「楽しさ」だけではないようです。
命に感謝し、残さず美味しくいただくことを誓って、釣り再開。
その後も、大きな甘鯛、小ぶりな甘鯛、ときにはレンコ鯛など違う魚種も混ざりながら、楽しく釣りを満喫しました。
釣りを通して感じたのは、釣りの面白さは「釣ることだけ」ではないということ。
普段の旅は、一方的にサービスを“受ける人”と“提供する人”にわかれた「消費活動」になりがちです。
しかし釣りはサービスと関係ない地元の人たちとも、自然と時間や目標を共有することになります。
大物が釣れたら称賛を送り、変なものを釣ったら一緒に笑う。誰かに大物がかかれば応援するし、取りのがしたら一緒に悔しがる。
そんな中で、「どこから来たの?」「釣りは何回目なの?」なんて会話がはじまり、「この魚はこの辺だと、こうして食べるんだよ。」「あのお店が面白いよ」なんて、地元の人だから知っているリアルな情報まで聞けます。
ガイドブックやSNSも便利ですが、目の前にいる“リアルな人”の視点や想いに沿った、真にローカルな情報を元に巡る旅は、これまた格別です。
そんな「地域の魅力を味わう入り口」に、釣りはぴったりだと思いました。
こうして釣りと、地域の方々との交流を楽しんでいるうち、あっという間にタイムアップ。
たくさんの魚と思い出を持って、港へ戻りました。
かめや釣具店
〒935-0013 富山県氷見市南大町1−1
TEL 0766-72-5511
営業時間
7~9月
平日 AM 8:00~PM 8:00 定休日:毎週火曜日
(土日祝日 日の出~PM 8:00)
10~6月
平日 AM 9:00~PM 7:00 定休日:毎週火曜日
(土日祝日 日の出~PM 7:00)
URL http://www.kameya-fish.com/
※要予約
■釣った魚の調理/民宿/あお
港を出て魚と共に訪れたのは、本日宿泊させていただく民宿「あお」。
こちらは予約時にお願いすれば、釣った魚の一部を夕飯に出してくださいます。(調理代は別。魚種やサイズによって価格は異なる。)
チャイムを鳴らすと、「いらっしゃい。なに、お嬢ちゃんが釣りしたの?釣れた?」と、ご主人自ら笑顔で迎えてくださいました。
そうして「立派な甘鯛だ。やるねー!」と褒めていただき、まるで親戚の家にでも遊びに来たような親近感。釣りは本当に、コミュニケーションの入り口として最高です。
どんな風に食べたいか軽く打ち合わせ、魚を置いたら町の散策に向かいます。
宿でのんびりする前にやりたいことが、氷見にはたくさんあるんです。
<漁村の伝統技術、かまぼこの絵付けに挑戦>
■かまぼこ絵付け/北大町/中村與市郎
まず訪れたのは、宿から車で5分の「かまぼこ 與市郎(かまぼこ店 よいちろう)」。
こちらでは、全国的にも珍しい「かまぼこの絵付け」体験にチャレンジできます。
富山県のかまぼこは、とってもカラフルでバラエティ豊か。古くから結婚式の引き出物として”巨大な鯛型”のかまぼこが用いられていたそうですが、近年ではお花やキャラクターなど、より自由な発想でかまぼこが作られるようになったそう。
こちらでは丸い白かまぼこをキャンバスに、6色のかまぼこペンで好きな絵を描くことができます。
まずは、お店のご主人がお手本を見せてくださいます。スルスルーッとヘラやペンを滑らせて、あっという間に見事な鯛が完成。
その後、「はい、自由にどうぞ!」と笑顔でかまぼこのキャンバスを手渡してくださいます。しかし何を描いても良いと言われると、自由度が高すぎて逆に難問。
私が頭を抱えていると、「蒸す前なら何回でもやり直しできますよ。ヘラでぬぐえば、また白いかまぼこに戻るから。」とご主人が勇気づけてくださいました。
この言葉で安心し、絵付けスタート。
思ったよりかまぼこは塗りやすく、絵や文字も書きやすくてびっくり。感覚はケーキのデコレーションに近く、丁寧にゆっくりより、思い切りよく手を動かす方が、思った線が描けました。
隣で見守ってくださるご主人にアドバイスをいただきながら、完成した作品がこちらです。
「真鯛だね。上手だよ。」「いえ、甘鯛です。さっき釣ってきた記念に。」「甘鯛にしてはデブじゃない?」「脂がのってるんですよ。(笑)」こんな会話を楽しみながら、かまぼこを蒸し器へ移します。
蒸し上がりには少し時間がかかるので、後で取りにくることにし、次へ向かいました。
かまぼこ絵付け体験
予約:(一社)氷見市観光協会
TEL 0766-74-5250
営業時間 9:00~17:00 ※(一社)氷見市観光協会
URL https://www.kitokitohimi.com/site/taiken/kamaboko.html
※要予約(3日前まで)
<氷見のご当地グルメ、氷見うどんを堪能>
■氷見うどん/上泉/海津屋
ランチは地元民に人気の「氷見うどん 海津屋」さんへ。
「手延べ」と「手打ち」の技法を併せた麺は、毎日早朝から職人さんが打っているそうです。
私は鍋焼きうどんをオーダー。グツグツ煮込まれているのに、麺は煮くずれすること無くツヤツヤです。
お餅を連想するような弾力と甘み、ほのかな塩味で、とにかく麺自体が絶品でした。
隣には販売所もあり、太麺から極細麺まで揃っています。これはお土産にも喜ばれそう。
うどん茶屋 海津屋
〒935-0037 富山県氷見市上泉20
TEL 0766-92-7878
営業時間 11:00〜15:00
毎週木曜日 定休
URL https://www.kaizuya.co.jp/kaizuya
<見て味わって泊まって楽しいワイナリーへ>
■体験型ワイナリー/余川/セイズファーム
ランチの後は、氷見の山間を少し上った場所にあるワイナリー「セイズファーム」へ。
こちらは畑や工場、レストラン、ショップに加え、1日1組限定の宿泊施設まで併設しており、県外からも多くのファンが訪れます。
デザイン性が高く、まるで海外にでも訪れたような気分になれるのですが、なんとこちらの母体は「魚問屋」。飲食店などに事業を拡げるなかで、魚にあうワインをつくろうと2008年に耕作放棄地を買い取り、ぶどうの栽培からスタートしたそうです。
魚しか知らない素人ばかりではじめたと言いますが、だからこそプロ(農家)がやらないような面倒な作業も愚直に続けられ、「素晴らしいワインをつくる。」と県内外に多くのファンを抱えています。
メルロー、カベルネ、シャルドネ、シードルなど複数種を製造・販売していますが、販売当日に売り切れてしまう品もあるそうです。
SAYS FARM(セイズファーム)
〒935-0061 富山県氷見市余川字北山238
TEL 0766-72-8288
営業時間 ショップ・ギャラリー 10:00〜17:00
定休日 なし
<自分で釣った魚と、ご主人の人柄を味わい尽くす夜に>
■民宿/あお
ワイナリー見学の後は民宿近くの浜辺を散歩。景観を楽しみつつ、お腹を空かせます。
早朝とは違う、柔らかなパステルの空と海に心が洗われるよう。地元の方いわく、氷見の夕日にはピンクとオレンジの2色があるそう。今日はどちらに染まっていくのでしょう。
そしてお待ちかねの夕食です。民宿「あお」はとにかく料理がすごい!とリピーターも多い宿。
それというのもご主人が魚の仲買人だったそうで、宿で出す魚は今もご主人が、毎朝魚市場で競ってきたものなんです。
(※写真は4人前)
だから食卓には、とびきり旬で美味しい魚がこれでもかと並びます。
今回は「寒ブリ」「クロダイの姿造り」「大きなサザエ」などが並ぶ、巨大な舟盛りからスタート。
どれも新鮮で美味しいのですが、特に印象的だったのが “背”と“腹”に分けて出してくださる寒ブリです。
同じ個体でも、腹は脂がたっぷりで濃厚。背は少しスッキリしていて、身の甘みをダイレクトに味わうことができました。
そして更にお刺身が出てきたと思ったら、こちらは私が釣ってきた甘鯛!釣って数時間しか経っていない身はプリップリで、咀嚼を跳ね返してくるようです。
噛む毎にねっとりと身が溶けていき、想像以上の旨味が口いっぱいに広がって至福としか言えません。
続いては、こちらも釣った甘鯛の炙り。口に運んだ瞬間、皮目の香ばしさが鼻から抜け、思わず「ふわわ〜」と、唸り声が漏れました。
魚は皮目と身の間に旨味成分が詰まっていると言いますが、その通り、先ほどの刺身以上の濃厚な味で、口中が甘鯛一色。
更に、釣ったレンコ鯛と甘鯛の塩焼き、蒸し餡かけと続きますが、ここで嬉しいゲストが登場。民宿「あお」のご主人です。
ビール瓶を片手に「美味しいかい?」と現れ、まるで親戚のように、お酌をしあいながら色々な話をしました。地域、景観、宿、魚…楽しい話は尽きません。
美味しい魚に加えて、ご主人の人柄まで味合わせていただき、お腹も心も満たされた夜になりました。
民宿あお
〒935-0002 富山県氷見市阿尾491
TEL 0766-74-3300
チェックイン 16:00 (最終チェックイン:21:00)
チェックアウト 09:30
URL https://goodlucktoyama.com/ao/
※後編はこちら
富山県氷見市の「農泊」について詳しく知りたい方は
「氷見市宿泊体験推進協議会」